コンクリート打継ぎ面処理剤 ジョイントエース JA-40

はじめに

ジョイントエースJA-40は超微粒子アクリルポリマーエマルションを主成分としたコンクリート打継ぎ面処理剤です。コンクリート打設直後に散布することにより、打継ぎ面の耐久性低下を抑えます。使用方法はジョイントエースJA-40を所定量散布するだけで、面倒な後処理はありません。また、スラッジ水などの副産物も発生しないなど、環境に優しい方法での処理が可能です。以下に、ジョイントエースJA-40を打継ぎ面処理剤として用いた場合の性能につてデータを用いて説明します。

打継ぎ性能

一般にコンクリート構造物は、その断面に鉄筋が存在する場合が殆どであることから、打継ぎ面処理に強度を求める場合は極めて少ない。むしろ、コンクリートの劣化因子が侵入することが懸念される。そこで、打継ぎ面処理剤による耐久性低下抑制能を以下の方法を用いて評価した。すなわち、簡便な曲げ強度試験を間接的な検証方法として用いて検討を進め、ポイントとなる段階で直接的な評価方法である中性化促進試験を行い、性能を確認した。

表-1.性能確認試験
試験方法 試験内容 判定
間接的試験方法 曲げ強度試験 強度が高い程、一体化性良好(耐久性良好)
加圧透水試験 透水量が小さいほど一体化性良好(耐久性良好)
直接的試験方法 中性化促進試験 中性化領域が小さいほど耐久性良好

曲げ強度試験

曲げ試験は以下の手順により行った。

  1. 15cm×15cm×60cm の型枠に旧コンクリート部として深さ30cmまでコンクリートを打設する。
  2. 打継ぎ面処理を施した後、同配合の新コンクリートを打継いだ。
  3. 新コンクリート打設後2日目に脱型し、所定の期間屋内養生(気温 20℃)を行った。
  4. JIS A 1106 に準じて3等分点載荷により曲げ強度を求めた。供試体作成方法および試験方法を図-1に示す。

図-1.供試体の作成方法と試験方法

加圧透水試験

適当な大きさの打継ぎ面をもつ供試体を作成し、新コンクリート打設後2週間目にコアカッターにより円筒形の供試体を得る。これをΦ120×140mmに成形した後、供試体の中心にΦ9mmのを空け、打継ぎ面に水圧がかけられるようにジョイントを取り付ける。0.5N/mm2の水圧を6時間かけた後の打継ぎ面の状況を観察する。

図-2.透水試験方法

中性化促進試験

適当な大きさの打継ぎ面をもつ供試体を作成し、新コンクリート打設後2週間目にコアカッターにより円筒形の供試体を得る。これを適当な大きさに成形した後、温度20℃、湿度60% 、CO2濃度5%の環境化で促進養生する。一定期間養生したものは割裂し、フェノールフタレイン発色法にて未中性化部分を発色させ、中性化深さを求める。尚、打継ぎ面の耐久性を測定することを目的としていることから、中性化深さを測定する範囲は打継ぎ面近傍とした。

付着機構とエマルションの最適化

樹脂エマルションを用いた打継ぎ面処理は、次の3つの要因が大きな影響を与えるものと考えらる。1~3の機構を図-3に模式的に示す。

  1. 旧コンクリートとポリマーセメントコンクリートの結合力(アンカー効果)
  2. レイタンス成分の固定化(樹脂改質効果)
  3. 新コンクリートとポリマーセメントコンクリートの結合力(キレート効果)

1.ポリマーセメントコンクリートのアンカー効果

ポリマーセメントコンクリートのアンカー効果は打設直後に散布する樹脂エマルションがコンクリートへ拡散浸透する深さによって決まる。散布方法、ブリーディング量および散布する樹脂エマルションの化学的安定性などに依存するものと考えられる。ジョイントエースは高電解質濃度、高pHの条件下でも化学的に安定であり、さらにその粒子が100nm以下と極めて小さいことから、まだ固まらないコンクリート中へ深く浸透することができる。

図-3.付着機構の概念図 径

図-4に硬化したモルタルを10%樹脂エマルジョン水溶液に24時間浸漬し、硬化体の断面を観察した写真を示す。ジョイントエース中に浸漬したものは5mm程度のポリマー粒子の浸透が確認できる。一方、同様な樹脂エマルションでも粒子径が大きく、化学的安定性に劣る場合は、ポリマー粒子の浸透がモルタル表層で止まっていることが判る。

図-4.ポリマー粒子の浸透状況

2.打継ぎ界面の樹脂改質

打継ぎ面の樹脂改質は図-5に示すように、浸透した樹脂エマルションが乾燥歴を受け、ポリマー粒子どうしの融着現象を経て進む。この改質効果は付着阻害因子であるエフロレッセンス成分などを包括・固定化しながら進むため、打継ぎ性能が向上するものと考えられる。

図-5.樹脂改質過程

図-5にエフロレッセンスの主成分であるCaCO3と樹脂エマルションを混合して得られる皮膜の強度を示す。
CaCO3単体では全く機械的強度が得られない。しかし、樹脂エマルションの混合割合が多くなるとともに、機械的強度も改善されていることが判る。(図-6に示すCaCO3と樹脂エマルションの混和量は、0.1cm3/cm2のブリーディングが発生した場合を想定)また、一般的に硬いポリマー粒子(高Tg;ガラス転移温度が高い)を用いた方が機械的に強いポリマーセメントコンクリート層を形成することができる。

図-6.炭酸カルシウムの改質

しかし、ポリマー粒子が硬すぎると融着過程の進行に支障をきたし、ポリマーセメントコンクリート層は脆弱となる。図-7にガラス転移温度の異なるエマルションを打継ぎ剤として用いた場合の曲げ強度試験の結果(試験条件は表-1参照)を示す。

図-7.ガラス転移温度と打継ぎ

結果からも明らかなように、ガラス転移温度が0℃の場合に曲げ強度比が極大値を持つことが判る。また、同様な条件にて作製した打継ぎ供試体から、コア抜きしたものについて、加圧透水試験および中性化促進試験を行った。結果を図-8、図-9および図-10に示す。

図-8.ガラス転移温度と水密性

いずれの結果からもガラス転移温度が0℃以下であれば、水密性および中性化抑制能が改善されていることが判る。
曲げ強度比による検証ではガラス転移温度が0℃の場合に最も良好な結果を示している。しかし、直接的に耐久性を評価してみるとガラス転移温度は0℃以下であればいずれのガラス転移温度であっても良好な結果を示すことが明確となった。今回行った一連の試験は20℃環境下での評価であることから、樹脂エマルションの最適ガラス転移温度は使用環境温度よりも20℃以上低ければ効果が得られことが推察される。

図-9.ガラス転移温度と中性化抑制能

ジョイントエースJA40は年間を通して安定した性能が得られるよう、ガラス転移温度を-10℃に設定した。

図-10.中性化促進状況(供試体サイズ:Φ120×140mm)

表-2.実験条件

3.ポリマーセメントコンクリート層のキレート効果

新コンクリートとポリマーセメントコンリート層との結合力はポリマーセメントコンクリート層表面の化学的性質に依存するものと予測される。ポリマーセメントコンクリート表層の性質はポリマー粒子表面の性質が反映されるものと考えられる。そこで、セメント粒子との親和性が高いカルボキシル基およびリン酸エステル基を官能基として持つ樹脂エマルションを打継ぎ剤として使用した場合の曲げ強度試験の結果を図-11(験条件は表-2参照)に示す。

図-11.ポリマー表面官能基と打継ぎ性能

結果からも明らかなようにカルボキシル基(-COOH)およびリン酸エステル基(-OPO(OH)2)のようなキレート効果を持つ官能基は曲げ強度の向上に寄与している。
尚、キレート効果とはセメント中のCa2+と官能基が図-12に示すような化学的結合をつくることであり、高い親和性の源となっている。ジョイントエースJA-40のポリマー粒子表面はカルボキシル基にて化学修飾されており、高い付着性能発揮することができる。

図-12.キレート効果概念図

施工因子が打継ぎ性に及ぼす影響

打継ぎ面処理方法、打継ぎ時間間隔、材令の検証

施工因子が打継ぎ性(曲げ強度)に及ぼす影響について評価するために、表-4に示す条件にて曲げ試験を行った。尚、打継ぎ時間間隔は表-3に示す考え方でパラメータを設定した。結果を図-13、-14に示す。

表-3.対象とした打継ぎ時間間隔

結果からも明らかなように、樹脂エマルション散布による打継ぎ面処理は、打継ぎ時間間隔が24時間以上であれば、在来工法であるグリンカット(レイタンス処理工法)と同等以上の性能を示している。樹脂エマルションの散布量は 200g/m2以上が好ましく、300g/m2では測定値のばらつきも小さく、安定した性能が得られている。

図-13.曲げ強度試験結果

図-14.打継ぎ面処理方法による測定値のばらつき

中性化促進試験(耐久性試験)

図-15.中性化深さの比較

図-16.中性化促進試験結果

表-4と同様な調合にて作製した供試体(φ100×200mm)について、中性化促進試験を行った。結果を図-15、-16に示す。樹脂エマルションによる打継ぎ面処理を行ったものは、在来工法であるグリンカット(レイタンス処理工法)と同等の性能を持つことが実験により確認された。

表-4.実験条件

薬剤散布時期による影響

打継ぎ剤の散布時期について3種類の散布方法を比較し、最適な散布時期を検討した。散布方法は

  1. 基準散布:旧コンクリート打設後、ブリーディングが引いた後に散布する。
  2. 直前散布:新コンクリト打設直前に散布する。
  3. 基準+直前散布:1、2の両タイミングで総散布量の半分づつを散布する。

曲げ強度試験による比較を図-17に示す。結果からも明らかなように、基準散布が最も良好な結果を示した。これはポリマーセメントコンクリート層を形成するためには、ある程度の時間が必要であることを示している。

図-17.散布時期と打継ぎ性

表-5.実験条件

ブリーディング量による影響

ポリマーエマルションを打継ぎ剤として用いる場合、ブリーディングの影響を大きく受けることが予測される。
ジョイントエーJA-40を用いる打継ぎ面処理では、ブリーディング等の影響を最小限に抑え、安定した打継ぎ性能を発揮させるため、ブリーディングを処理した後に薬剤を散布することを推奨している。本項ではブリーディング量が打継ぎ性にどの様な影響を及ぼすかについて検証した。表-6に示す表面処理工法についてブリーディング量(図-18参照)の異なるコンクリートを用いた場合の打継ぎ性試験を行った。結果を図-19に示す。

表-6.打継ぎ面処理方法の内容

図-18.ブリーディング測定結果

図-19.ブリーディング量と打継ぎ性

ブリーディング量が 0.2cm3/cm2以下の範囲では、推奨している基準散布法を用いた場合は安定した打継ぎ性が得られている。一方、直散布の場合はブリジージグ量が多くなると伴に、打継ぎ性は低下する傾向にあり、ブリーディングによる影響を受けていることがわかる。また、中性化 促進試験(供試体サイズ:Φ120×140mm)より打継ぎ面からの劣化状況を確認したところ(図-20、-21参照)、曲げ強度比の場合と同様、ブリーディング量が増えるに従い、耐久性改善効果が低下する傾向がみられた。

図-20.ブリーディング量と中性化抑制能

図-21.中性化促進状況(供試体サイズ:Φ120×140mm)

表-7.実験条件

現場実証試験例

実施例1

2000年8月下旬名古屋某作業所にて大型試験体を用いた現場実験を行った。用いたコンクリートの配合、および性状を表-8に、試験結果を表-9に示す。

表-8.供試用コクリート配合および性状

表-9.打継ぎ性能試験結果

実施例2

2001年6月下旬千葉県某作業所にて現場実証実験を行った。用いたコンクリート配合、および性状を表-10に、打継ぎ面処理方法を表-11に、試験結果を表-12にそれぞれ示す。

表-10.配合

表-11.打継ぎ面処理方法

表-12.打継ぎ性能試験結果

標準的な使用方法

散布

コンクリート打設後、ジョイントエースJA-40を散布して下さい。
ブリーディングが多い場合は、除去等の処理を行った後に散布作業に入って下さい。

鉄筋への影響

ジョイントエースJA-40が鉄筋に付着しても、発錆したり、コンクリートとの付着性6)を阻害することはありませんので、鉄筋が密集している部位でも安心して使用できます。

養生

ジョイントエースJA-40はジョウロ等を使って散布して下さい。散布量の目安は300g/m2です。尚、ジョイントエースJA-40は乾燥して、被膜化した方が高い性能を発揮しますので、打継ぎ間隔が極端に短い場合(6時間以下)には所定の性能が得られない場合があります。

注意事項

養生効果もある薬剤ですから、施工後は特別な処置は必要ありません。しかし、施工直後に降雨を受けた場合は、ジョイントエースが流失し、所定の効果が得られない場合があります。
また、ジョイントエースJA-40 を散布後、新コンクリートを打設するまでは、打継ぎ面を清浄に保ってください。

打継ぎ性良好

打継ぎ性不良(漏水)

注)本写真は防水剤としての性能を保証するものではありません。
取り扱いに当たってはSDSを参考下さい。

参考文献

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